会社設立時の注意点!
知っておくべき7つのポイント

独立の夢をかなえて意気揚々と事業に取り組み始めたものの、思いが けないところでつまずいてしまうのが会社経営です。

創業時にありがちな落とし穴をあらかじめ知ることができれば、本業に集中し、よりスムーズに会社を軌道に乗せることができ
ます。

ここからは、会社設立時に知っておくべき7つのポイントをこれから会社を設立するAさん、元上司で会社設立の先輩、B社長
の対話でご紹介します!

1.資本金の額

会社設立時のよくある質問-『会社って1円でも設立できるの?』

A『資本金の制限はないので、1円でもいいですよね』

:会社の設立準備が順調に進み、登記に必要な書類がそろえ始めたAさんは、脱サラして5年前に会社を作った元上司のB社長
に尋ねました。

B『僕も最初は資本金を1円にしたんだけど、えらい目に遭ったよ』

:するとB社長からはとんでもないという表情を浮かべて首を左右に振りました。

A『えっ?どうしてですか?』

:驚いたAさんは詳しく話を聞いてみました。

B社長は創業して間もない時期でも借りられるという制度融資を利用しようと、 日本政策金融公庫や地元の市役所に相談に行き
ました。ところが『資本金1円では融資ができない』と言われてしまいました。いわゆる創業融資は実績がない会社も相手にし
てくれますが、融資額は資本金の2倍からせいぜい3倍程度までの場合が多いのです。資本金が1円では話にならなかったので
した…。

B『あわててお金をかき集めて増資したんだけど、手続きに手間や時間がかかるし、 余分な費用も使っちゃったんだ』

:今のうちに聞いておいてよかったと思ったAさんは、資本金の額を考え直すことにしました。

解説

創業融資に限らず、金融機関から融資を受けるときに資本金が1円の会社は信用してもらえません。仕入先や販売先にしても、取引口座を開くのに二の足を踏むところが出てくるでしょう。資本金は最低でも100万円以上、できれば300万円以上にしておきたいところです。

一方、資本金が1000万円を超えると、創業時に認められる消費税免除の特典が使えなくなることも頭に入れておきましょう。

2.創業時の資金不足

会社設立時のよくある質問-『会社を始めるのに幾ら掛かるの?』

B『ところで、今手元にある資金はどれぐらいなの?』

:B社長に聞かれたAさんは、頭の中で計算してみました。

A『だいたい300万円ぐらいですかね』

B『じゃあ、今からかかるお金は幾らくらいって考えてるの?』

A『いや、まだそこまでは試算していません…』

B『おいおい…。それを早く把握しておかないと。お金が足りなかったらどうするの?』

A『そうですよね…。』

B「それから会社を始めるときにかかったお金は、創立費として後で会社の経費にで きるんだ。だから何か買ったときには領収書をもらっておくといいよ」

:準備不足を指摘されて頭をかくAさんに、B社長はもうひとつ助言をしました。

A『でも、個人名義の領収書でいいんですか?』

B『創立費の場合、会社名義ではもらえないからそれでも構わないんだよ』

A『そうですか。じゃあ、大切にとっておきます』

B『それでは、今から会社を始めるのに幾らかかるかを見積もってみようか』

解説

会社を始めるときにいくらかかるのかは、業種や事業の内容によって異なります。次の うち、自分が使うことになる費用を
リストアップして、必要な金額を出しておきましょう。(※株式会社の場合を想定)

設立費用

・定款に貼る印紙代 4万円(電子申告の場合不要)
・公証人の認証手数料 5万円
・定款の謄本交付手数料 1000〜2000円程度
・登録免許税 15万円(資本金2200万円以下の場合)
・行政書士や司法書士にかかる費用 10万〜15万円
・その他 登録事項証明書、印鑑証明書の発行費用など

設備資金

・事務所にかかる保証金、家具など
・パソコン、コピー機などのOA機器
・製造設備、社用車など
・文房具や什器類
「運転資金」
・商品や原材料の仕入購入費
・従業員の給与
・通信費
・広告宣伝費
「その他」
・自分自身の生活費

3.銀行口座の開設

会社設立時のよくある質問-『銀行口座の開設に時間が掛かるってホント?』

設立に必要な資金のめどが立ったAさん。実際に事業がスタートした後の話をB社長としていた時のことです…。

A『B社長は事業をスタートしたときから順調でしたよね』

B『おかげさまで、売上の方は順調だったね。でも、それはそれで結構、大変だったんだよ!』

A『大変って、何処がですか?』

冗談かと思ってAさんが笑いながら聞くと、

B『いや、本当に大変だったんだ。銀行の口座を開くのが遅れて、お客さんにかなり迷惑をかけてしまったんだ…。』

事前に顧客をつかんでいたBさんは、会社設立とほぼ同時に契約を結ぶことができましたが、1ヵ月後に取引先から『お金はどこに入金すればいいの?』と聞かれて、会社の名義で入金する口座がないことに気がつきました。
すぐに銀行に行きましたが、個人の口座を開くときと違ってなかなか審査が通りません。

B『結局、口座ができるまで1ヵ月かかって、それまで入金できなかったんだ』

A『B社長の個人の口座に振り込んでもらえばよかったのに…』

B『取引先からは法人としか取引していないから個人名義はダメ!って言われたんだ。それに支払いを延ばすのも社内規定があって手間がかかるんだよって、怒られちゃったよ』

最初のうちはどうせ融資も受けられないから、銀行との付き合いは後回しでいいかなぁ…と考えていたAさんですが、設立登記したらすぐに銀行に口座の開設に行こうと思いました。

解説

銀行では個人の口座はその場でも作ってくれますが、法人の場合はそうはいきません。口座開設に必要となる書類がそろうのが設立登記してから1週間、それから銀行が口座を作るまでにさらに1週間から2週間はかかるのが一般的です。

しかも振り込め詐欺など、法人口座を悪用するケースが増えているため、金融機関は創業したばかりの会社の審査には慎重です。特に都市銀行は年々審査が厳しくなりつつあります。ですから金融機関とは、早めに会社として付き合いを始めておきましょう。

まずは近くにある金融機関に行って、会社名義の普通預金口座を開設します。一ヵ所ではなく、複数の金融機関で口座を開設しておくことも大切です。売上の入金のほかに、会社の運転資金口座、給与振込口座など、目的別に利用します。

また、インターネットバンキングへの登録は複数のメリットがあります。他行宛振込手数料、ATM手数料、出金手数料、口座維持手数料が安くなる銀行があります。銀行窓口が混んでいて余計な待ち時間をとられた、営業時間の都合で「翌営業日」に振り込みになった、といったストレスがなくなりますので、ぜひご検討ください。

4.事業年度と免税期間

会社設立時のよくある質問-『会社の設立日によって消費税の免税期間は変わるってホント?』

B社長の会社設立時の失敗談はさらに続きます…。

B『会社の設立日は何時にするの?』

A『登記ができるようになれば何時でもいいので、成り行きで考えています(しっかりと考えていません…)」

B『いや、実は僕は設立日で大損してしまったから、気をつけた方がいいよ』

設立日で大損したというのはどういうことなのか、Aさんにはよくわかりません。そこでAさんは「大損」について聞きました。

B『設立したばかりの会社だと、消費税を払わなくてもいいって知っているかな』

A『はい、聞いたことはあります』

B『その免税期間が、設立日と事業年度に気をつけないと短くなってしまうんだよ』

B社長の会社は、事業年度を11月始まりで翌年10月を期末としました。年末に繁忙期を迎えるので、その時期の売上や利益を把握した上で役員報酬をはじめ経費の調整ができると思ったからでした。ところが当初は4月に会社を設立するつもりだったのが、思ったよりも準備に時間がかかり9月末になりました。その結果、最初の事業年度は1ヵ月ちょっとだけで終わり、すぐに11月から新年度が始まってしまったのです。

解説

B『設立してから2年間は消費税を払わなくていいと思っていたのに、2年間ではなくて2期だったんだ』

A『じゃあ、1年と1ヵ月で免税期間が終わってしまったんですね…』

B『そうなんだよ。後でしっかり消費税がかかってきたよ。しかも設立したと思ったらすぐに決算だろ。税務申告も初めてでよくわからないし、バタバタしてしまって、 もうどうなることかと思ったよ』

Aさんは、B社長の失敗の教訓にして1年目の事業年度がなるべく長くなるように設立日を決めることにしました。

5.青色申告

会社設立時のよくある質問-『青色申告と白色申告って何が違うの?』

会社を設立して2ヵ月。社長業にもようやく慣れてきたAさんは、最近お願いするようになった税理士のQ先生に会計業務や税金について教わっています。

A『先生、このままの売上だと第1期はどうしても赤字になってしまいます…』

Q『そうですね…。でも第2期目から黒字にできれば十分です。それに法人税の計算では、赤字が出ても翌年以降に黒字が出れば相殺できますから、無駄にはなりませんよ』

A『なるほど。結構な赤字になるかもしれませんが、2年目からはその分税金の心配をしなくてもいいということですね』

Q『そうです。ただAさん、青色申告の届出はもう済ませてますか?』

A『青色申告?決算の申告は事業年度が終わってからするんじゃないですか?』

Q『いや、青色申告をするにはあらかじめ申請しておかなければいけないんです。会社を作って2ヵ月目だから、まだ間に合いますよ』

A『そうだったんですか!危ないところでした。さっそく税務署に行ってきます』

気づかなければ、2年目以降の黒字が大きくなった場合、何百万円もの法人税を余分に払うところでした。Q先生に聞かなかったら、大事になっていたかもしれません…。

解説

青色申告の特典はいくつかありますが、創業したばかりで赤字が予想される会社で は、「繰越欠損金の損金算入」の恩恵が大きいでしょう。これは今期1000万円の赤字が出たら、来期以降9年間は黒字を1000万円まで相殺できるという制度です。

青色申告の承認申請書は、設立から3ヵ月以内に出すことになっています。会社設立に必要な書類は一生懸命そろえても、事業がスタートすると忙しさから後回しにしてしまい、その後に必要な申請を忘れてしまいがちです。白色申告だと融資を受けるのもままなりませんから、忘れずに申請しておくようにしましょう。

6.源泉所得税の納付

会社設立時のよくある質問-『給与を払っていないのに源泉所得税がかかるの?』

他にも申請漏れや手続きの不備があるのではと心配になったAさんは、税理士のQ先生に書類を見てもらいました。すると税理士の先生は浮かない表情でこちらを見ています。

Q『Aさん、源泉所得税を納付していないようですね』

A『ええ。だって私と妻の二人が役員報酬をもらっているだけで、社員もアルバイト も一人もいませんからね。給料を払っていないのだから、源泉所得税もかからないでしょう』

Q『いえいえ、それは勘違いですよ。役員報酬も、毎月源泉所得税の納付書を作成して、支給日の翌月
10日までに税金を納付することになっているんです』

A『知らなかった……。じゃあ、毎月書類を書いて、税金を納めないといけないんですね』

Q『そうなんです。ただ小規模の会社だと、半年分ずつまとめて納めればいいという制度もありま
すよ』

Aさんはほっとしました。

A『じゃあ、まだ2ヵ月しか経っていないから大丈夫ですね?』

でもQ先生は、気の毒そうにこう言いました。

Q『残念ながら、事前に届出をしておかないとダメです。また、今まで納付していなかった分には、
加算税や延滞税がかかってしまいます…』

これから払う税金が増えてしまったと、Aさんはため息をつきました。

解説

給与だけでなく社長本人や役員の報酬にも、所得税はかかります。会社は毎月源泉 所得税を天引きして納付しなければなりません。これを忘れると、後から加算税や延滞税も含めて払うことになります。

従業員が10人未満の会社は、1月から6月までの分を7月10日まで、7月から12 月までの分を翌年1月20日までにまとめて納付しても構いません。この特例を利用するには、その前月末までに税務署に源泉を提出する必要があります。

7.役員報酬額

会社設立時のよくある質問-『給与を払っていないのに源泉所得税がかかるの?』

第1期も終わりに近づき、会社の経営も安定する兆しが見えてきました。このままいけば、今期は利益が出せそうです。ところが今月は、支払いがかさんでしまったために大赤字です。いつも通り役員報酬を払うと、手元の現金が不足する恐れが出てきました。

A『仕方ない。今月は役員報酬を減らすか……』

Aさんが悩んでいると、税理士のQ先生から電話がありました。

Q『もうすぐ初めての年度末ですね。決算に向けて心配なことはありますか?』

A『今のところなんとかなりそうです。その前に、今月はキャッシュフローが厳しいんですが、いい方法はないですか? 役員報酬を100万円から10万円にして何とか凌ぐことはできそうですが…』

Q『ちょっと待ってください!それはできませんよ。今すぐうかがいますから待っていてください!』

駆けつけたQ先生の話を聞いたAさんは、びっくりしてほかの手段を探すことにしました。一体何がいけなかったのでしょうか?

解説

役員報酬は、1年間を通して同じ金額にしなければなりません。ただし第2期より期首から3ヵ月以内なら変更することは認められます。もしも、変動させた場合は、法人税の計算で、事業年度内で一番低い金額が毎月の役員報酬とみなされます。毎月100万円役員報酬を出していても、ある月だけは金回りが 苦しいからと10万円にすると、年間120万円しか役員報酬を払っていないものとして扱われてしまいます。

また、100万円の役員報酬を払っていた月については、10万円との差額の90万円は「役員賞与」になります。この役員賞与は経費として認められませんから、本来なら年間1200万円の損金になったはずの役員報酬は、税金の計算については扱いが10分の1になってしまいます。役員報酬が減ると、その分会社の所得が増えて、法人税を多く払わなければなりません。Aさんの会社は1年目は赤字になりそうですが、それでも2年目以降に黒字と相殺できる額が少なくなります。

事業年度内で役員報酬額を変えることはできません。期首の段階で1年間の売上や 利益、キャッシュフローの変動をある程度見積もった上で決める必要がありますので、役員報酬額は慎重に設定しましょう。