アマルガム問題と医院での対応

2025年 12月 24日

■ 水俣条約締結国会議が開幕

 水銀使用を段階的に削減する「水俣条約」の議論が進む中、歯科医療におけるアマルガム充填材の扱いが国際的な焦点となっています。日本ではすでに新規使用は事実上ありませんが、過去に施されたアマルガムの撤去・廃棄は今後も避けられない課題です。
この問題は、単なる臨床上の対応に留まらず、医院のリスクマネジメント・患者対応・設備投資・労働安全衛生に直結します。水俣条約は、環境汚染や健康被害のリスクのある水銀の使用を止めることを目的に、2013年に日本の水俣で採択され、2017年から発効しています。その結果、水銀体温計や蛍光灯の生産、流通が段階的に取りやめられるようになりました。歯科治療におけるアマルガム充填材も、同様に規制する流れになっているのです。

 アマルガム充填材は約50%の水銀を含んでおり、かつては日本でも広く用いられましたが、2016年に保険適用から外れており、事実上、使用が差し止められています。一方、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどでは現在も使用されており、海外のデンタルショーでは、展示、販売されているのを見かけます。アマルガム充填材のメリットは、光重合型のコンポジットレジン充填よりも安価な上、天然歯質をあまり削らなくても良い点にあります。また、殺菌効果があるためか、非常に長持ちで二次う蝕のリスクが少ないとされます。

■ 撤去と破棄は今後も課題になる

 これに対して、アマルガム充填材のデメリットは、言うまでもなく水銀を含むこと。口腔内に長く放置されるため、その中で水銀が溶出するリスクが懸念されるのです。
 「歯科のアマルガムで健康被害が生じた」という例が、社会問題になったことはありません。しかし、高度成長期に水俣病の悲劇を経験した我が国では、水銀による健康、環境への負荷に人々の関心が高いのも事実です。実際、まだアマルガム充填が保険適用だった時期から、「ウチではアマルガムを扱わない。患者にも先生にもリスクがあるから」と決めている中堅ディーラーを取材したことがあります。
 新規のアマルガム充填が事実上、行われない現在の日本では、アマルガム充填材が問題になるのは、過去に充填されたアマルガムの撤去と廃棄に関することで、いずれも歯科医師にとって負担となります。

 水銀は、他の金属と混ざったアマルガムの状態であれば安定しています。しかし、除去しようと高速の回転切削器具で削ると熱によって気化するため、術者や患者さんが水銀を吸い込むリスクがあり、急性中毒による中枢神経、内分泌系、腎臓の障害の他、体内への蓄積で慢性中毒も懸念されます。
水銀をアマルガムにして使用した例は、奈良時代の大仏建立が有名です。その時、多数の水銀中毒者を生じたのは、金と水銀のアマルガムから金のみを分離するのに水銀を気化・分離させた結果、気化した水銀を作業員たちが吸い込んだためと考えられます。こうした水銀曝露が、歯科治療でも起こりうるということですが、それを防ぐには、本来は「十分な排気システムの下で、術者が防護服を着る」という特殊な環境が必要だという専門家もいます。そこまで対応している歯科医師は稀ですが、最低でも口腔外バキュームなどの補助的な排気装置は必要でしょう。
口腔内から撤去されたアマルガムの廃棄についてはヨーロッパの規制が厳しく、他の医療用廃棄物とは分けて採集・保管し、水銀含有の医療用廃棄物と明記して廃棄することが必要です。日本では、現状、そこまで対応している歯科医院は多くありませんが、水俣条約の解釈、運用次第では、同様の対応が求められる可能性もあります。
 
 アマルガム規制が厳しい国では、専用のアマルガム収集機が販売されており、かなりのコストとスペースを必要とします。こうした機械を装備できるのは、事実上、限られた専門医療機関のみです。撤去時に術者もリスクを負うため、患者さんにも相応の負担をお願いしなければなりません。
新たにアマルガム充填をしなくなっている日本でも、高齢者の多くにはアマルガム充填が施されています。金属アレルギーなどの症状がない限り、積極的に撤去することは求められませんが、「アマルガム撤去」を求める患者さんが受診した際の対応(自院で撤去・廃棄するか、専門機関に紹介するか)を決めておくことは必要でしょう。

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