新たな地域交通の活用で受診率向上!
■ オンデマンドバスの予約と連携
「歯科医院に行きたいけれど、交通手段がない」。そんな声に応える新たな取り組みが、横浜市青葉区で始まっています。地域を走るオンデマンドバス「あおばGo!」と、歯科医院なども利用する予約サービスEPARKが連携し、住民の“移動”と“受診”を同時に支援する仕組みが構築されつつあります。
「あおばGo!」は、住民が電話やWebで希望日時と行き先を予約すると、自宅近くの仮想バス停(区内に約200ヶ所)にワゴン車が迎えに来る乗合型の交通サービスです。複数の予約をAIが最適化し、効率的なルートで運行する仕組みとなっています。地元歯科医師会とEPARKは、この仕組みに歯科医院を目的地として加えることで、受診率の向上を目指しています。現在、実証実験は3年目を迎えており、持続可能な交通手段としてだけでなく、地域医療の基盤としての役割も期待されています。

■ 公共交通の危機が生んだ新サービス
全国的に路線バスの減便や廃止が進む中で、オンデマンド型交通は注目される補完サービスとなっています。地方ではマイカーの普及により公共交通の利用者が減少し、学生や高齢者しか乗らないという認識が広がっています。運賃収入が入らないため乗務員の給与も伸び悩み、人手不足が加速。運行本数が減って利便性が下がり、さらに利用者が遠のく、という負のスパイラルが出来上がっているようです。
横浜市のような大都市も例外ではなく、地元のバス路線を運営する東急グループが「今後、地域交通の維持が困難になる」と判断し、行政と協議の末にオンデマンドバスの導入に至りました。
定期運行を続けるにはドライバーや車両の確保が難しいものの、オンデマンドのサービスであれば、何とか持続可能なのだそうです。また、オンデマンド交通は、定期運行よりも柔軟な運用が可能で、特に運転免許を返納した高齢者の移動手段として機能しています。行き先には役所や商業施設、医療機関などが想定されており、自宅と、それらの拠点を行き来することがオンデマンドバスの主な目的とされています。EPARKと地元歯科医師会は、地域内の歯科医院もその一つとして組み込むことで、ややもすると後回しになりがちな定期的な歯科受診を促そうと考えたのです。
予約サイトのEPARKは、幅広い年齢層で地域住民の多くが会員登録しているため、個別の情報発信が可能です。単に「歯科に行きませんか」と呼び掛けるだけでなく、会員の誕生日や新学期といったタイミングに合わせて近隣の歯科医院を紹介するなど、具体的な受診行動を促す工夫もできます。オンデマンドバスのWeb予約と、地域の歯科医師会からの情報発信が密接に連携することで、こうした取り組みが実現したと言えます。
■ 社会課題をビジネスチャンスに
こうした公共交通を医療・福祉に関連付ける施策は、海外ではすでに先行事例があります。例えば台湾。2017年から公共交通と医療・福祉を組み合わせたシステムを運用しています。「台湾長期介護10年計画」では、地域を広さの順にC級(街角レベル=在宅サービス)、B級(中学校区=リハビリ拠点)、A級(医療圏=病院、クリニック)の3段階に区分。コミュニティバスで拠点間をつなぎ、高齢者や障害者の移動を支援しています。台湾は、日本の介護保険制度を参考にしつつ、地域包括ケアシステムの構築を進めていますが、利用者の「足」の確保を重視し、公共交通を社会保障制度に組み込んでいる点が特徴です。このアイデアは、社会環境が似ている日本も参考にできるのではないでしょうか。
「病院が遠くて通えない」「近くに公共交通機関がない」といった医療アクセスの障壁は、健康の社会的要因(SDH)と呼ばれ、世界的な保健課題となっています。日本ではSDHの克服を、どちらかと言えば行政の役割と捉えがちで、それらの予算をコストと見なす傾向があります。
一方、北米では、民間企業がSDH解消の取り組みをビジネスと捉える傾向があり、実際、SDH関連の投資が巨額の利益を生んでいることに対する批判的論調も見られます。
どちらが良いか、という話ではありませんが、日本でも、「水道管の老朽化を早期発見する人工衛星」「人手不足に悩む農家を支援するロボット」など、社会課題がきっかけで新たな産業が生み出されてきています。オンデマンドバスとの連携による高齢者の歯科受診の改善に向けた取り組みは、そうしたビジネス展開の一つとして注目できると期待しています。